上部消化管出血 KIM

概要

疾病というより、症候としての概念の範疇である。

成因は静脈瘤性出血と非静脈瘤性出血に大別される。

後者で最も多いのが、胃・十二指腸潰瘍からの出血である。

便についてよくいわれる「黒色便は上部、鮮血便は下部」に関しては、特異度は実はそれなりにある(90%前後)。ただし完璧ではない。

「口から血が出た」という触れ込みについても、訴えだけでは判然としない面はある(つまり、本当に吐血かわからない)。血痰のようなものを吐血だと大騒ぎする者もいて、軽微な出血なら鼻腔や口腔由来ということもよくある。

喀血が原則として咳とともに口から血液を排出することであるように、嘔吐ともに口から血液を排出することを吐血と呼ぶのが原則である。

食道からの出血では必ずしも嘔吐とともに血を吐くわけではないが、上部消化管出血では普通は嘔吐感のような胃部不快を伴っているはずである。

本当に吐血か?の問題の次は、緊急内視鏡が必要か?の問題がある。

血行動態が不良、Hb9g/dL未満となるような急性あるいは進行性貧血があれば実施するだろう。

しかし現実には、いつオンコール医を呼ぶべきか・紹介すべきか、呼ぶ・紹介する前に何をどこまでしておくべきか、について、あまりに人・施設による差が激しいことが悩ましい。

臨床をやっていて、こうなったらこうするみたいな基準が最も欲しいのがこの「緊急内視鏡の実施基準」である。自治体レベルで制定しておくか、いっそもう憲法とかで定めておいてほしい。

オンコール医を呼ぶにあたって

問題はたくさんある。なかでも一番は、オンコール医(緊急内視鏡の実施者)のみたてや判断の差にあまりに開きがあることである。

吐血を診療し上部消化管に病変があるかもしれないと緊急内視鏡の必要性について相談したり、再出血を懸念したりしているから内視鏡実施可能な医師はコールしているのに、あれはやったかこれをやっとけと電話口でうるさく、態度も悪い人物が多い。

これは「技術を持つもの」にありがちな全能感や「若気の至り」などに起因しているのだと思うが、不思議と循環器内科医にACS疑いをコールしたときや、外科医に腹膜炎や婦人科医に婦人科疾患を心配して相談した時などの場面では、そこまで不遜な態度を取られることは少ないように思う。

胃管チューブを入れて胃内血液を確かめるように言ってくる医師もいれば、別に要らないという医師もいる。

直腸診をしていないことに激怒する医師もいれば、そうでない医師もいる。

他方、ただの慢性鉄欠乏性貧血で、Hb7くらいでも循環も安定しており別に緊急内視鏡が要りそうにないのに、ひどく驚いてすぐ輸血して内視鏡をするような医師もいる。

事前にCTも撮っていないのかと怒る医師もいれば、特に必要ないとする医師もいる。

対策としては、心の中で「お前から内視鏡を取り上げたら何が残るのか」を考察してみると良い。結果、対して何も残らないような医師であれば、特に怯まなくてよいと思われる。

日頃から細やかに、ケースバイケースで考えている医師なら、他科・非専門医の医師に、自分の個別性の高い「謎ルーティン」を押し付けてくるようなことはしない。

コンサルトする側の正直な気持ちとして、同じような病態や状況でも、緊急内視鏡をしたりしなかったりすることや、術者によって事前にしておいてほしいことが全然違ったりすることが、非常にストレスフルなのである。

個人的には、「すぐやる必要があるの?」みたいなケースにも実施しているので、消化器内科医の疲弊を心配してしまうことが多い。

内視鏡の道を志す者は、技術のみならず精神も磨いてほしい。何事も、心技体が重要であり、技術屋として外科医同様に「鬼手仏心」をいつでも忘れないでいてほしい。

疑い方

循環動態の把握が最優先である。併行して薬剤歴や既往歴を聴取していく。

血圧や脈が体位によって変動しやすかったり、立ちくらみがひどかったりする場合には、臥位で診療するようにし、輸液ルート確保・血液検査を優先する。

酸素飽和度や呼吸回数にも注目し、呼吸が不安定であれば酸素を過量投与する。

採血は血算、網状赤血球、BUN、クレアチニンは必須である。

急性出血では直前の前値と比べて、MCV=横ばい、網状赤血球=上昇、BUN上昇、の経過・推移をとっていることが多い。

Hbの進行性の低下があれば可能性は高まる。Hb値にもよるが、輸血を念頭に置く。

肝硬変の患者なら、静脈瘤の破裂かもしれない。腹壁が硬ければ、穿孔を合併しているかもしれない。

消化管出血という身体的負担を契機に、心筋梗塞を起こしていることもある。心電図はどこかのタイミングで実施しておく。

時間が許せば、緊急内視鏡前のCT撮影は有益であると考える。穿孔の有無だけでなく、実は膵癌があったとか、偶然に大動脈解離が疑われる病変があったとか、ひどい肺炎もあったとか、情報が増えることがある。

上部消化管出血は、緊急でも非緊急でも、最終的には上部消化管内視鏡によって原因が検索されるべきである。

判断のための補足

循環動態が安定していれば、あとは再出血のリスク次第である。

しかし、これも相談する内視鏡医の判断に合わせるべきで、きわめてローカルに考えていくしかない。

次々と吐血するのではなく、しかも入院に同意し安静が確約されているのならば、その日はベッドレスト・絶食・点滴・PPI投与で数時間(ひと晩)〜1日はしのげると考える。

入院するならばちょっと安心だと考えておいいという発想が必要なこともある。

安静にしない・できない、すぐに点滴できない、次の食事や飲酒をしてしまう可能性がある、などのまだ活気があるような状況の方がよっぽど危険である。この場合あるいはこの可能性があるならば確実にすぐの内視鏡につなげ、診断を優先した方が良いだろう。

「吐血したらとりあえず緊急内視鏡」というのが、若手の育成のためなのか、消化器内科医の安心や技術向上のためなのか、患者への説明のためなのか、絶対的に必要なのか、もう少し説明してほしいところである。

消化器内科医は心配性なんだと言ってくれた方が、こちらも楽である。

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Dr.こうじろう
1992年生まれ、関西出身。幼少期の喘息経験から医療に興味を持ち、地元大学の医学部を卒業後、研修医を経て総合診療医として地域医療に貢献。医療と介護の連携を重要視し、経済やマネジメントの知識も学びつつ、「最適化された医療を提供する」ことをモットーに従事する。趣味は筋トレ、テニス、ウイスキー収集。医療に関するニュースや日々の診療ですぐに実践できる知識を発信するブログ。