多くの病院が赤字。この先どうなる?

先日、東京都内の病院が赤字であることを記事で見た。

以下引用

東京都立病院機構の2023年度決算は、最終損益が182億円の赤字(前の期は93億円の黒字)だった。独立行政法人となった22年以前を含めると4期ぶりの赤字で、15医療機関のうち7病院の経常損益が赤字に転落した。新型コロナウイルス関連の補助金の終了に加え、材料費の上昇も響いた。

都立病院機構は都立と公益財団法人の医療機関を移管し、22年7月に設立された。通期の決算としては独法化後、今回が初となる。22年度は独法化前後で会計方式が厳密には異なるが、合算して比較している。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC022FS0S4A900C2000000

さらにm3でも

尾崎都医会長「皆保険制度、守るのは相当厳しい」
2024年の都内民間病院「8割くらいが赤字の可能性」
https://www.m3.com/news/iryoishin/1237549

 東京都医師会の尾崎治夫会長は10月8日の会見で、9月の自民党の総裁選などでの議論における皆保険制度の財源確保について問われ、「日本は国民負担率が伸びないままに社会保障が増えていて、その分、巨大な借金がある」と説明し、「このいびつな財政の中で皆保険制度を守っていくというのは、私は相当厳しいのではないかと思っている」と述べた。都内の民間病院の8割が赤字に陥る可能性にも触れ、病院経営の厳しさを訴えた。

ここからは自分なりに思うこと、問題の本質、そして現場の医療者としてしなければならないことを考えてみる。

問題の本質

  1. 国民負担率と社会保障費の不均衡: 日本の高齢化が進む中、医療と介護の需要が急速に拡大していますが、国民負担率は上がらず、税収不足が続いています。そのため、社会保障費の財源は国債発行などで補われ、債務が積み上がっています。
  2. 医療費の膨張と病院経営の困難: 特に民間病院が赤字になりやすいのは、診療報酬の低下や医療スタッフの人件費が増加する一方で、医療サービスの提供が不十分な財源で求められているためです。
  3. 高齢化による需要の増加: 団塊の世代が後期高齢者となる2025年以降は、介護と医療の需要がさらに増大し、それに伴う施設の赤字拡大が懸念されています。
  4. 地方医療と都市医療の格差: 都市部では民間病院が多く、赤字になりやすいが、地方でも医療過疎の問題があり、双方で医療供給の維持が厳しい。
  5. 医師の経営に対する関心の薄さ: 医師が日々の診療に集中している一方で、病院経営に関心を持たない場合、全体の運営が効率化されず、結果的に赤字が拡大するリスクがある。医療と経営は密接に関わっており、特に限られたリソースの中で最適な資源配分を行うためには、医師も経営視点を持つことが重要だ。
  6. 病床をフル稼働させるためのマンパワー不足: 人手不足は全国的な問題だが、特に病床の稼働率を上げるために必要な看護師や医師などの人員が足りない場合、どうしても救急車をお断りしなければならない機会が多くなる。

病院経営における財源の問題は大きい。現場で働く者が直接的に介入できる領域ではない。ただし、内部で取り組める部分としては、以下の2点が重要だろう。

1. 経営の効率化

病院の収益を最大化するためには、現状で取り組める最適な方法として以下が挙げられる:

  • 医学管理料の適正な請求:医療サービスに対して適切な料金を確実に請求することで、収益を最大化する。特に、診療報酬のルールを正確に把握し、漏れなく請求する体制を整える。現在の医療制度上病院での売上をあげることをできるのは、事実上、医師になる。これは誰が医療を成り立たせているかということを言っているのではない。患者が受診し、問診、検査、診断、治療という一連のプロセスにおいてそれぞれ保険点数が決まっている。医師が診療報酬ルールを分かっていて診療を行うのと、そうでないのとでは、売上は大きく異なるだろう。
  • 不要なシステムの排除:無駄な業務や効率化されていないシステムを見直し、リソースの最適化を図ることで、運営コストを削減する。案内の自動化や効率化など、改善点を考えるべきだろう。

2. 予防医学の推進と在宅医療の強化

医療者としての役割から、医療費を削減し、患者の健康を維持するために予防医学の推進や病院死を減らすことは責務であると考えている。

  • 予防医学:大病を予防することで、将来的な医療費の膨張を抑制する。特に生活習慣病の早期発見や健康指導に力を入れ、患者が大きな病気にかかる前に対処する。
  • 在宅医療と病院死の減少:病院での入院治療を減らし、可能な限り在宅でのケアを増やすことで、病院維持のコストを削減する。在宅医療は設備コストがかからず、患者の生活環境を活かせる点で効率的。施設や在宅での看取り体制の強化も、病院の稼働を適正化する手段として重要だ。

これらの取り組みは、医療者の手の届く範囲で現実的にできる改革だと思う。病院という「宿泊施設」の役割を最低限に抑え、自宅や施設でのケアを増やすことで、経営の負担を軽減しつつ、患者のQOLを保つ方法が鍵となる。

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Dr.こうじろう
1992年生まれ、関西出身。幼少期の喘息経験から医療に興味を持ち、地元大学の医学部を卒業後、研修医を経て総合診療医として地域医療に貢献。医療と介護の連携を重要視し、経済やマネジメントの知識も学びつつ、「最適化された医療を提供する」ことをモットーに従事する。趣味は筋トレ、テニス、ウイスキー収集。医療に関するニュースや日々の診療ですぐに実践できる知識を発信するブログ。