概要
大腸憩室出血は、固有筋層を欠く仮性憩室から起こる出血のことを言う。
結腸に向かう直動脈の破綻が原因であり、仮性憩室の底部の直動脈あるいは憩室側壁(頭部)の粘膜下層の直動脈から憩室腔側に出血すると、これが下血されて憩室出血としての臨床症状(血便)を呈する。
なお臨床医、特に内科医にはほぼいらない知識だが、出血点で多いのは憩室の底部が3/4、頸部が1/4らしい。底部の方が憩室の過進展を受けやすいからだろうか。
血管が破綻しやすい、という点では高齢者の方が多そうであると推測しやすいが、実際憩室出血の80%を60歳以上が占め、また男性に多い(66%)こともわかっている。
他のリスクは、抗血小板薬内服や肥満など、常識的なものである。
下血・血便の有力な鑑別疾患が憩室出血であると言い切れるほど、コモンな疾患である。
疑い方
腹痛を伴わない、急性の下血で本症を疑う。
この血便は、いわゆる(患者が感覚として述べる)「血液そのもの」に近いことが多い。実際には少し薄まったようなテイストではあるが、鮮紅色と言える色である。
急性というのは、逆に言えば、「1、2ヶ月前からちょこちょことなる」のではないということである。
患者の多くが前日や前夜、今朝に〜といった時間単位で、鮮やかな血便を心配してやってくる。
そんな患者に、腹痛を訴えないという病歴を拾えたら、憩室出血の可能性が高い。
痛みの乏しい痔核、高齢者でははっきり症状を訴えられない急性出血性直腸潰瘍、未診断のクローン病などでも、「腹痛のない下血」という臨床表現をとるかもしれないが、常識的な対応で鑑別可能である。
痔核は直腸診や肛門鏡、クローン病かどうかは注意深く病歴を聴き、迷うなら内視鏡で判断できる。
憩室出血は、おそらく物理的な動脈破綻が原因であるため、急性出血性直腸潰瘍のように、むしろ基礎疾患がしっかりとあったり(寝たきりに近い)、寡活動な高齢者などに多く、憩室出血を起こす患者像とはかけ離れる。
放射線性腸炎の可能性もありえるが、治療歴の有無の問診で判断する。
中高年以上で日頃から運動や仕事をしているなど自分で生活ができている人が、腹痛を伴わない急な血便を気にして外来に自分でやって来たら、それは憩室出血の可能性が高い。
また憩室出血は反復する(再発しやすい)傾向があるので、これも診断の手がかりにしやすい。
経過と治療
経過
憩室出血はほぼ自然止血する。
入院したとしても、保存治療のみで70〜80%は自然止血する。しかし再発率も高く、20〜40%くらいである。
緊急内視鏡止血術などの介入がなくても、高率に自然止血すること自体が憩室出血の特徴ともいえる。
治療
バイタルサインが安定していて、受診時にすでに活動性出血がなさそうなケースでは、外来フォローも可能である。
安全をとって入院させた場合では、安静・補液で自然止血を期待する。
それでも出血する場合は、診断の見直しを含め、消化器医や外科医にコンサルトする。
そもそもショック・著しい急性貧血に陥っているケース、高齢者や基礎疾患などで余力が少ない患者では、入院の必要があるだろう。入院すれば、主訴が「消化管出血」となり自然と適切な診療科が関わることになるので、診療としては一本道である。
フォロー
自然止血したが、憩室出血であるという自信がない場合や他疾患の可能性を考えて鑑別を要するときは、内視鏡を勧める事がある。
病歴が典型、同じエピソードを反復するなど、憩室出血であることがほぼ間違いないと思えるケースでは、「下血した」ということだけでその都度内視鏡を勧奨することはしないだろう。
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