概要
気管支拡張症は、症状としては咳嗽・粘性痰が慢性的に持続する一方で、急性の増悪期を繰り返すことで気管支に不可逆的なダメージを負った末の状態像を指していて、ある意味「症候群」である。
もともと本症は、進行性で疾患を修飾する薬剤がなく、予後不良の疾患として扱われていた経緯がある。
また、非常に多岐にわたり雑多とも言える要因や疾患に由来する症候群として認識されていたため、長い間チョ重くされることがなかった。
気管支拡張症の最も一般的な症状は咳嗽と喀痰であるが、その前段階では無症状か「咳のみ」というフェーズが実際には先行(潜行)している。
検診、あるいは(気道症状以外の)別の理由で撮影した胸部CTで見つかることもある。
喀痰は粘稠・膿性で、血痰や喀血を伴うこともある。
進行すれば症状の程度や悪化頻度が増え、労作時の息切れや呼吸困難を伴うようになる。倦怠感や発熱、体重減少が認められ、うつや不安症状もみられうる。
終末期にはⅡ型呼吸不全を合併し、また肺高血圧症や心不全となる。
疑い方
日本は画像検査のアクセスが良いため、長い間、程度の強い気管支拡張症が見逃されていることは少ないであろう。
気管支拡張症はCTで十分認識は可能で、気道の内腔の直径が、近接する動脈の直径よりも大きいことで気管支が拡張していると判断する。気管支拡張症ではこれがいくつもあるのですぐわかる。
また、正常でみられるような気管支の先細りがないため、末梢〜胸膜付近にまで大きな径の気管支(の断面)がいくつも容易にCTで見て取れる。
気管支拡張症は、総じて高齢の女性に多い。
要因・原因疾患はたくさんあるが、原因不明も多い。
気管支拡張症の原因疾患(頻度順)
- 感染症
- 免疫不全症
- COPD
- 膠原病
- アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
- 粘液線毛系異常
これらを認識することは、CTで気管支拡張症の所見を見た時に、次にすべき検査を知る上で有用となる。
感染症は結核や非結核性抗酸菌症が多い。喀痰培養(一般細菌の他に、抗酸菌も)を行う。
免疫不全症の中ではcommon variable immunodeficiency(CVID:分類不能免疫不全症)の比率がやや多い。血清のIgG、IgA、IgMを調べておく。
気管支拡張症にCOPDを合併していると、急性増悪の回数が多くなり、また死亡率も高い。気管支拡張症の診断時には肺機能検査を行う。
膠原病といっても一番多いのは関節リウマチである。すでにリウマチの診断がついていない患者の場合は、関節症状に注目しても良いだろう。
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症では、中枢気管支内に好酸球性粘液栓がみられるなどの所見(CT縦隔条件で周囲よりやや高吸収の気管支内のmucoid impactionとしてみて取れる)があれば疑える。アスペルギルス特異IgE抗体を血清で測定してスクリーニングしておく。
粘液線毛系異常は、日本では嚢胞性線維症は少ないため、原発性線毛機能不全症候群を意識する。これの有名な亜型がKartagener症候群であるが、内臓逆位を示さないこともあり、中耳炎や副鼻腔炎の罹患歴を意識しておく。
要因が何であれ、気道の好中球性の慢性炎症、粘液線毛障害による気道粘液の輸送障害、気管支自体の構造破壊といった複数の病院が、交互に絡み合って病態悪化に向かうのが気管支拡張症である。
症候群として捉えられる疾患であるものの、症状で疑うというより「CT所見上の定義」のようなところがある疾患である。
よって放射線診断医の読影や呼吸器専門医の判断によって診断がなされる。
経過と治療
経過
急性増悪を繰り返しながら、緩徐ながら確実に肺機能が低下し、最後は比較的急な経過をとって重症化する。
中等度以上のひどい気管支拡張症のある患者が、長寿を全うしている印象はあまりない。
治療
気道クリアランスの促進が治療の中核となる。
去痰薬、呼吸リハビリの他、手洗い励行やワクチン接種など基本的な感染対策を教える。
急性増悪は、通常は急性感染の増悪か、ひどい喀血や膿性痰のひどい悪化にあり、それぞれに対応する。
喀血がコントロールできない場合は、血管塞栓術の適応となることがある。
マクロライドの導入は、呼吸器専門医にコンサルトして決めるべきである。
この疾患の「下り坂」の経過をとるdisease trajectoryを変えるには、有効な疾患修飾薬が望まれる。
近年、好中球性炎症が注目されておりDPP-1阻害薬が期待されている(DPP-1は、好中球のセリンプロテアーゼの活性化に関与する酵素である。)
フォロー
栄養療法を教え、無用な食事制限を回避させ、体重が減らない食事管理を指導する。
COPD、関節リウマチなどの併存症があれば介入する。
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