総合診療医の実践アプローチ:低カリウム血症補正の意外な難しさ

はじめに

低カリウム血症は、様々な病態でみられる電解質異常の一つであり、重症化すると筋力低下、不整脈、呼吸筋麻痺などを引き起こすことがあります。特に重症低カリウム血症では、補正が難しく、治療初期にむしろK値が低下するケースも少なくありません。

本記事では、総合診療医の視点から、低カリウム血症の補正のポイントや注意すべき点について、実際の症例を紹介しつつ解説します。補正のスピード管理や適切なフォローアップの重要性について、一緒に考えていきましょう!

なお当ブログの内容は、一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を目的としたものではありません。症状や治療についての最終的な判断は、必ず専門の医師とご相談ください。

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症例:50歳男性の低カリウム血症(アルコール性ケトアシドーシス)

【主訴】

下痢・起立困難

【現病歴】

50歳男性、日常生活は自立。毎日焼酎を1L摂取する習慣がある。もともと軟便傾向があったが、ここ数日は特に下痢が続いていた。2日前から下肢筋力低下を自覚し、前日には歩行困難となった。本日、動けなくなり救急搬送された。

【既往歴】

  • 慢性的な飲酒(毎日焼酎1L)
  • 高血圧症

【現症】

  • 意識清明
  • 体温 36.8℃
  • 血圧 110/72 mmHg
  • 脈拍 108回/分(整)
  • 四肢の近位筋優位の筋力低下(MMT 3-4/5)
  • 腱反射正常

【検査結果】

項目結果基準値
Na136 mEq/L135-145
K2.2 mEq/L3.5-5.0
Cl98 mEq/L98-107
HCO₃⁻12 mEq/L22-28
BUN24 mg/dL8-20
Cr1.2 mg/dL0.6-1.2
Glu92 mg/dL70-140
乳酸3.8 mmol/L0.5-2.0

【血ガス分析(動脈血)】

  • pH 7.29
  • HCO₃⁻ 12 mmol/L
  • Anion Gap 26

【尿検査】

  • 尿K:30 mEq/L(高値)
  • 尿ケトン:陽性(++)

診断

アルコール性ケトアシドーシス(AKA)に伴う低カリウム血症


【治療と経過】

  • 初期治療
    • 生理食塩水500mL + KCl 20mEq(1日2回)
    • グルコン酸カリウム36mEq(分3 毎食後)
  • 治療反応
    • 翌日、血清K値が1.9 mEq/Lへ低下
    • 緊急で中心静脈カテーテル挿入
    • 生理食塩水100mL + KCl 20mEq(1日5回投与)開始
    • 翌日、K値 2.3 mEq/Lへ上昇

低K血症の補正初期にはK値がさらに低下することがあるため、厳密なフォローが重要である。 K 2.5未満では、3時間ごとのフォローを行い、補正速度の調整が必要。

本症例のように、筆者の経験では低K血症の治療初期にはKが低下トレンドとなるケースが少なくなく、1日100mEqの補充を行っても十分な上昇を認めないことがある。 そのため、K 2.5未満では次のフォローを3時間程度で行い、補正のスピードを上げる必要がないかを慎重に評価すべきであると考えている。


【低カリウム血症の評価ポイント】

病歴聴取

  • 重症低K血症の症状
    • 動悸・脱力・体動困難
    • 嚥下障害(内服補正の可否に影響)
  • K摂取低下のリスク因子
    • 食欲不振・体重変化・拒食・アルコール依存
    • 食事内容の確認
  • K排泄亢進の可能性
    • 嘔吐・下痢
    • 体液喪失(ドレナージなど)
  • 細胞内シフトを引き起こす疾患
    • 糖尿病・甲状腺疾患
  • 周期性四肢麻痺の鑑別
    • 運動や過食のエピソードがあるか
  • 低Kを引き起こす薬剤
    • 利尿薬、β刺激薬、インスリンなど

検査項目

  • 血液検査
    • 血算、Cre、電解質(K, Mg)
    • 血糖、CK、TSH、FT4
  • 尿検査
    • 尿中K、尿中Cre
    • 尿K/Cr >15-20 mEq/gCr → 尿中K排泄亢進の可能性
  • 心電図所見
    • U波、T波平坦化・陰性化
    • QT延長、TdP、房室ブロック、期外収縮

低K血症の鑑別

まずは原因頻度として多い下痢・嘔吐・薬剤の影響を考える。

尿中K/Cr>20が目安。Kの腎臓排泄の亢進があるのか減弱があるのかまずは鑑別する。

https://www.jhf.or.jp/pro/hint/c4/hint014.htmlより転載(Arch Intern Med. 2004 Jul 26; 164(14):1561-6/Am J Kidney Dis. 2010 Dec : 56(6):1184-90/Kidney Int Rep. 2021 Feb 13; 6(5):1211-24)


低K血症の初期治療

重度の低カリウム血症を治療する場合、薬剤の添付文書に従うべきか、また院内コンセンサスがどのようになっているかを意識する必要があり、その点が治療を悩ませる要因だろう。

以下のような内容が紹介されている。

https://connect.doctor-agent.com/article/column489

特に、重度の低K血症では中心静脈カテーテル(CV)を用いた補正が一般的であるが、準備に時間を要することがある。そのため、嚥下障害がない患者に対しては、KCl徐放錠を100mEq程度内服させる「オーラルパルス」(塩化カリウム徐放錠12錠)を活用することで、早期の補正が可能となる。

研究によれば、40~60mEqの内服で血清K濃度が一時的に1.0~1.5mEq/L上昇し、135~160mEqの内服では2.5~3.5mEq/L上昇することが報告されている。

このように内服薬も適切に使用することが重要である。

添付文書上の使用方法含有量1日投与量1日K量注意点
塩化カリウム徐放錠600mg8mEq/錠2錠16mEq経管から投与不可
塩化カリウム13.4mEq/g2-10g134mEq大量(1g:100ml)の水と共に内服
アスパラカリウム錠1.8mEq/錠最大10錠18mEq
アスパラカリウム散2.9mEq/g最大6g17.4mEq
グルコンサンK錠2.5or5.0mEq/錠1日10mEqを3−4回40mEq
グルコンサンK散4mEq/g1日10mEqを3−4回40mEq

添付文書通りに使用するのであれば塩化カリウムが最も投与量を増やすことができる。

またK製剤の使い分けについて簡単に触れておく。

正直これまでの使用経験では院内採用のあるK製剤は限られているため、その施設にある薬剤や使い慣れている薬剤を選択するようにしていた。しかし特徴を押さえた上で病態で使いにくい場合もあることは考えておいた方が良いだろう。

https://hokuto.app/post/M5b6VxkSi3nztpoJo9Mq

特にグルコン酸K製剤は、その代謝物がHCO3ーを産生するため、アルカローシスをきたすことが知られている。明らかなアルカローシスのある低K血症にはグルコン酸K製剤は使用しにくいことは知っておいた方が良いだろう。

また塩化カリウム自体は非常に苦いとされている。あらかじめ処方する前に飲みにくいけれども、命に関わる重要な薬であることは説明していた方が良いだろう。

マネジメントの一例

K値マネジメント
<2.0・中心静脈ルートより20~40mEq/hrで投与
・末梢静脈ルートより最大10mEq/hrで投与
・経口で30〜40mEqを内服し3〜4時間後に採血。
・安定するまでは3〜4時間毎に採血
2.0~2.5・末梢静脈ルートより最大10mEq/hrで投与
・経口で30~40mEqを内服し3〜4時間後に採血。
・安定するまでは3〜4時間毎に採血
2.5~3.0・経口投与で10〜40mEq/dayで開始
・翌日に採血フォロー

*K濃度は末梢輸液で最大40mEq/L、中心静脈では200mEq/L(生理食塩水100mlにKCL20mEq)

(例)K2.2の患者の場合

末梢ルートより生理食塩水500ml+KCL20mEq 160ml/hで開始

塩化カリウム4gをすぐ内服(採用がなければ塩化カリウム徐放錠8錠orグルコン酸K散8g)

+α 硫酸Mg補正液20ml(20mEq)+生理食塩水100ml点滴投与 1時間で

3〜4時間後 血液検査フォロー

ただし心機能低下があれば容量負荷をかけにくく、また嘔吐や通過障害が否定できない場合は中心静脈カテーテル挿入を行なって高濃度のK点滴を行った方が良いだろう。

またマグネシウムについて下記に記載するが、施設によってはMgの値がすぐに出ないところも多いだろう。そのため便秘治療などで酸化マグネシウムの投与が行われていない場合など、低Mg血症の関与が否定できない場合は、(私見にはなるが)Mg補充も先んじて行っても良いと考える。

マグネシウムについて

カリウム補充の際には、低マグネシウム血症の補正も重要である。低カリウム血症の約50%は低マグネシウム血症を合併するとされている(Huang CL and Kuo E, Mechanism of hypokalemia in magnesium deficiency. J Am Soc Nephrol 2007;18:2649-2652.)。これは、低マグネシウム血症がROMKチャネルを介したカリウム排泄を促進するためである。そのため、低マグネシウム血症が認められる場合は、カリウムとともにマグネシウムの補充も忘れずに行うことが重要である。

硫酸Mg補正液20ml(20mEq)+生理食塩水100ml点滴投与 1時間で

*硫酸マグネシウムはリンゲル液とは、沈殿を起こしてしまうため、ヴィーンFやソルデムなどの点滴と同時投与はできない。そのため、生理食塩水や5%ブドウ糖液などへ混注して、別ルートで投与を行う必要がある。

【まとめ】

低カリウム血症は、早期診断と迅速な補正が重要。 特にK 2.5未満では短時間ごとのフォローが必要であり、経過観察中にK値が低下するケースもあるため注意が必要である。

補正に際しては、

  • 重症低Kの症状の有無
  • K摂取低下・排泄亢進・細胞内シフトの原因
  • 尿K排泄亢進の有無(尿K/Cr比)
  • 心電図変化の評価 を総合的に判断し、適切な補正戦略を立てることが重要である。

本症例のように、AKAに伴う低K血症では初期補正でむしろ低下することがあるため、補充スピードの調整が鍵となる。

低カリウム血症の補正について、皆さんの経験や工夫しているポイントがあればぜひコメントで教えてください!また、本記事の内容についてのご質問やご意見も大歓迎です。

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Dr.こうじろう
1992年生まれ、関西出身。幼少期の喘息経験から医療に興味を持ち、地元大学の医学部を卒業後、研修医を経て総合診療医として地域医療に貢献。医療と介護の連携を重要視し、経済やマネジメントの知識も学びつつ、「最適化された医療を提供する」ことをモットーに従事する。趣味は筋トレ、テニス、ウイスキー収集。医療に関するニュースや日々の診療ですぐに実践できる知識を発信するブログ。