【総合診療メモ】失神の徹底アプローチ:鑑別・評価・精査・治療のすべて

失神(syncope)は突然の意識消失で始まる緊急性の高い主訴の一つです。一見良性に見えることもありますが、命に関わる重大な疾患の初発症状である場合も。今回は、失神のアプローチを、現場で迷わないための実践的フローとしてまとめました。

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第1章:失神とは

■ 定義

失神は、「大脳半球の一過性の低灌流により生じる意識消失」であり、短時間で完全に回復することを特徴とします。

  • 突然発症
  • 意識消失の持続時間は短く(多くは数秒〜数分)
  • 自然に完全回復
  • 発作中の記憶がない(健忘あり)
  • 運動制御・姿勢保持も障害される(転倒しやすい)

これに対し、けいれんや代謝性の意識障害(例:低血糖)などは、失神とは区別されます。


第2章:失神か、それ以外か? – TLOC(transient loss of consciousness)の鑑別

まずは、「一過性意識消失(TLOC)」全体を鑑別する必要があります。

■ 分類

  • 失神(syncope)
     → 大脳の低灌流による一過性意識消失。
     分類:
     1. 神経調節性(迷走神経反射、排尿・排便後など状況失神)
     2. 起立性低血圧(薬剤性、出血、自律神経障害・糖尿病・高齢者・神経変性疾患など)
     3. 心原性(不整脈・構造的心疾患など)
  • 非失神性TLOC
     → 失神とは異なる病態。
     例:
     ・てんかん
     ・心因性(精神疾患・パニックなど)
     ・代謝性(低血糖など)

第3章:初期対応の流れ – 「失神のアプローチ」

  1. 病歴よりTLOCを疑う
  2. 失神 vs 非失神性TLOC の鑑別
  3. 初期評価(病歴・身体診察・心電図・血圧)
  4. 高リスク所見の有無を判断 → リスク層別化

高リスク患者

・新規発症の胸部不快感、呼吸困難感、腹痛、頭痛

・労作時や仰臥位での失神

・突然発症の動悸直後の失神

・前駆症状がなく、回避行動がない

・若年の心臓突然死の家族歴

・座位での失神

  1. 必要に応じて精査・入院・治療を行う

第4章:失神の病歴聴取 – 超重要ポイント

■ 特に重要な病歴要素:

  • 前兆:ふらつき、悪心、嘔気、発汗、視野狭窄など(神経調節性を示唆)
  • 発作時の状況:立位・排尿後・痛み・咳嗽など(迷走神経反射)
  • 既往歴:心疾患、不整脈、失神の家族歴(Brugada症候群など)
  • 目撃情報:痙攣・チアノーゼ・持続時間(非失神性を示唆)

第5章:リスク層別化の方法

■ San Francisco Syncope Rule(CHESS)

以下のうち1つでも当てはまれば、7日以内の重篤イベントリスクが高く、入院が推奨される:

項目略語
心不全の既往C: Congestive heart failure
Ht <30%H: Hematocrit
心電図異常E: ECG
呼吸困難S: Shortness of breath
収縮期血圧 <90 mmHgS: Systolic BP

感度96%、特異度61%


第6章:高リスク所見と危険な失神の見極め

■ 病歴・身体所見で危険を示唆する所見

  • 胸痛、動悸、呼吸困難
  • 労作時の失神、心疾患の既往
  • 頻脈・徐脈・収縮期血圧 <90 mmHg
  • 持続する意識障害(けいれんや頭部外傷を伴う場合も)

■ 心電図での高リスク所見

  • 徐脈(<40bpm)、房室ブロック(Mobitz II型、第3度)
  • Brugada型波形、QT延長、デルタ波
  • 心筋梗塞の痕跡、ICD・ペースメーカ装着者

第7章:精査の選択

■ 超音波検査(心エコー)

  • 弁膜症、左室機能低下、心筋症、心タンポナーデ、肥大型心筋症、肺高血圧などを評価

■ 起立試験(orthostatic BP)

  • 起立後3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上低下、または90mmHg未満 → 起立性低血圧と診断

■ ループレコーダー(ILR)

  • 原因不明の反復性失神、または高リスク所見がある場合に考慮

第8章:治療とフォローアップ

■ 治療の原則:

原因治療
神経調節性失神教育・脱水回避・ミドドリン(4–8mg分2)
起立性低血圧塩分・水分摂取、弾性ストッキング、内服(ミドドリンなど)
徐脈性不整脈ペースメーカー
頻脈性不整脈抗不整脈薬・アブレーション・ICD
虚血性心疾患PCI、CABGなど
HOCM、Brugadaなどカテーテル治療、ICD

第9章:退院前アクションプラン

  • 原因不明のまま退院する場合もあるが、致死性疾患の否定が前提
  • 総合内科・循環器・神経内科との連携を

おわりに

失神は「ただの立ちくらみ」と見過ごされがちですが、心電図異常や心疾患の存在があれば予後に大きく影響します。San Francisco Syncope Ruleを使ったリスク層別、初期評価の徹底、そして必要な精査・治療の選択が重要です。

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Dr.こうじろう
1992年生まれ、関西出身。幼少期の喘息経験から医療に興味を持ち、地元大学の医学部を卒業後、研修医を経て総合診療医として地域医療に貢献。医療と介護の連携を重要視し、経済やマネジメントの知識も学びつつ、「最適化された医療を提供する」ことをモットーに従事する。趣味は筋トレ、テニス、ウイスキー収集。医療に関するニュースや日々の診療ですぐに実践できる知識を発信するブログ。