酸塩基平衡異常を徹底解説|診断の基本からAG・補正計算・鑑別アプローチまで

はじめに

酸塩基平衡異常は、重症患者の評価や治療方針の決定において極めて重要な情報源です。本記事では、「pH」「CO₂」「HCO₃⁻」「アニオンギャップ(AG)」といった基本所見から、代謝性・呼吸性のアシドーシス/アルカローシスの鑑別、さらには補正AGや尿検査を用いた実践的な診断アプローチまで、図表を交えて分かりやすく解説します。


1. 血液ガスの正常値を確認しよう

項目正常値備考
pH7.35〜7.45静脈血では0.02〜0.04低い
PaCO₂35〜45 mmHg静脈血では3〜8 mmHg高い
PaO₂≧80 mmHg
HCO₃⁻21〜27 mmol/L静脈血では1〜2高い
AG10〜14 mmol/L補正AGを使う場面も

2. 酸塩基平衡異常のステップ評価

Step 1|pHでアシデミアかアルカレミアかを判断

  • pH < 7.36 → アシデミア(酸性)
  • pH > 7.44 → アルカレミア(塩基性)

pHが正常でも、代償によってバランスされているだけで「混合性異常」が隠れている可能性があるので注意が必要です。


Step 2|CO₂・HCO₃⁻でアシドーシス or アルカローシスの原因を判断

所見疾患
pH↓, CO₂↑呼吸性アシドーシス
pH↓, HCO₃⁻↓代謝性アシドーシス
pH↑, CO₂↓呼吸性アルカローシス
pH↑, HCO₃⁻↑代謝性アルカローシス

HCO₃⁻とPaCO₂の関係は以下の式で決まります:pH=6.1+log⁡([HCO3−]0.03×PaCO2)pH=6.1+log(0.03×PaCO2​[HCO3−​]​)


Step 3|代償反応の予測式を使う

代謝性酸塩基平衡異常に対しては、換気量の変更により呼吸性代償が行われる。

呼吸性酸塩基平衡異常に対しては、腎臓からのHCO3-排泄の調整により代謝性代償が行われるが、呼吸性代償と比較して時間がかかる。

代償性変化は正常phを超える変化を起こすことはない。

原因代償の予測式(±2程度)
代謝性アシドーシスPaCO₂ ≒ 1.5 × HCO₃⁻ + 8
代謝性アルカローシスPaCO₂ ≒ 0.7 × HCO₃⁻ + 20
急性呼吸性アシドーシスΔHCO₃⁻ ≒ 0.1 × ΔPaCO₂
慢性呼吸性アシドーシスΔHCO₃⁻ ≒ 0.4 × ΔPaCO₂
急性呼吸性アルカローシスΔHCO₃⁻ ≒ 0.2 × ΔPaCO₂
慢性呼吸性アルカローシスΔHCO₃⁻ ≒ 0.5 × ΔPaCO₂

予測とずれていれば「混合性酸塩基異常」の可能性を疑います。

STEP4 代償反応の解釈

CO2やHCO3-の変化が、予測された代償性変化の範囲に治っていない場合、別の酸塩基平衡の合併を考慮する。

実測CO2>予測CO2:呼吸性アシドーシス

実測HCO3->予測HCO3-:代謝性アルカローシス など

STEP5 アニオンギャップの計算

アニオンギャップ(AG)の評価とAGMA・NAGMAの分類

AGの計算式

AG=Na+−(Cl−+HCO3−)AG=Na+−(Cl−+HCO3−​)

正常範囲:10〜14 mmol/L

アルブミン低値時は補正AGを使用:補正AG=実測AG+2.5×(4.0−実測Alb)補正AG=実測AG+2.5×(4.0−実測Alb)



STEP6 補正HCO₃⁻で混合異常をチェック

補正HCO3−=実測HCO3−+(AG−12)補正HCO3−​=実測HCO3−​+(AG−12)

補正HCO₃⁻示唆される異常
<22 mEq/LAG正常代謝性アシドーシスの合併
>26 mEq/L代謝性アルカローシスの合併

STEP7 求められた酸塩基平衡異常からの病態診断

STEP1~6で導き出された酸塩基平衡異常および病歴、身体所見、検査所見から疑われる病態を導き出す。

AGが高い:AG開大性代謝性アシドーシス(AGMA)

原因(GOLDMARK)

項目内容
Glycolsエチレングリコール、プロピレングリコール
5-Oxoprolineアセトアミノフェン中毒
L-lactateショック、低酸素、肝不全など
D-lactate短腸症候群、DKA後
Methanol失明リスクもある毒物
Aspirin呼吸性アルカローシスの合併あり
Renal failure尿毒症による酸の蓄積
Ketoacidosis糖尿病性、アルコール性、飢餓性

AGが正常:AG非開大性代謝性アシドーシス(NAGMA)

原因(HARDUP)

分類代表疾患
Hypocapnia後換気異常後の反応性酸負荷
Hyperalimentation高栄養輸液によるCl⁻過剰
RTA(尿細管性アシドーシス)Ⅰ型、Ⅱ型、Ⅳ型など
Diarrhea腸液中HCO₃⁻喪失
尿路変更尿管変更手術による酸排泄障害
NaCl過剰投与希釈性アシドーシス

尿AG・尿浸透圧ギャップでRTAの鑑別

尿AG([Na⁺] + [K⁺] − [Cl⁻])

結果意味
<0下痢など、腸管由来のアシドーシス
>0RTAなど、尿中NH₄⁺排泄障害を示唆

尿浸透圧ギャップ(UOG)

UOG=実測尿浸透圧−2×(尿Na++尿K+)ー尿ブドウ糖/18ー尿中窒素/2.8

結果解釈
<150 mOsm/kg腎性(RTAなど) 尿中アンモニア排泄障害を示唆
>400 mOsm/kg腸管性(下痢など)

代謝性アルカローシスの鑑別アプローチ

ポイントは「尿中Cl⁻」と「血圧」

  • 尿Cl⁻<20 mEq/L
    • 嘔吐・利尿薬中止後など
  • 尿Cl⁻≧20 mEq/L
    • 高血圧あり:原発性アルドステロン症、クッシング、Liddleなど
    • 高血圧なし:Barter症候群、Gitelman症候群など

呼吸性アシドーシス・アルカローシスの原因まとめ

呼吸性アシドーシス(換気低下)

分類
中枢性脳卒中、薬剤性(麻酔、オピオイド)
神経筋性ギラン・バレー、重症筋無力症
肺疾患COPD、無気肺、ARDSなど

呼吸性アルカローシス(過換気)

分類
生理的妊娠、発熱、痛み、パニック
代謝性サリチル酸中毒、敗血症、肝不全
脳神経系脳卒中、腫瘍、感染、外傷など

まとめ:酸塩基異常は臨床の「羅針盤」

数値を暗記するよりも、「変化の意味」を読み解く力を養おう

酸塩基平衡の異常は重症疾患や代謝障害の初期変化として現れやすい

AG・補正AG・補正HCO₃⁻の計算と、尿検査の併用が鍵

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Dr.こうじろう
1992年生まれ、関西出身。幼少期の喘息経験から医療に興味を持ち、地元大学の医学部を卒業後、研修医を経て総合診療医として地域医療に貢献。医療と介護の連携を重要視し、経済やマネジメントの知識も学びつつ、「最適化された医療を提供する」ことをモットーに従事する。趣味は筋トレ、テニス、ウイスキー収集。医療に関するニュースや日々の診療ですぐに実践できる知識を発信するブログ。