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はじめに
輸液療法は入院患者に対して行われる頻度の高い治療である。輸液の適応となる病態を把握し、適切な輸液を選択することが必要である。入院自体が輸液の適応ではなく、過剰、不要な輸液に伴う合併症を避けることも肝要である。
体液整理の基本
体液は細胞第液(血管内、細胞間質)、細胞内液に分類される。成人では体重60%が体液で、その1/3が細胞外液で2/3が細胞内液である。
細胞外液のうち1/4が血管内に存在し、残りの3/4が細胞間室などの血管外スペースに存在する。つまり体液は、細胞内液:細胞間質:血管内=8:3:1で分布している。
輸液の基本
輸液製剤は晶質液と膠質液に大別され、晶質液には生理食塩水、リンゲル液、5%ブドウ糖液、1~4号液があり、膠質液には人工膠質液(ヒドロキシエチルデンプン:HESやデキストラン)やアルブミンなどがある。
輸液の細胞内外への分布は有効浸透圧に依存し、晶質液の浸透圧に主に影響を及ぼすのはナトリウムである。
ナトリウムが多い細胞外液(生理食塩水やリンゲル液)は細胞外にとどまり(細胞間質3/4)、血管内1/4、ナトリウムが含まれない5%ブドウ糖液は細胞内外に均等に分布する。(血管内1/12)
膠質液や赤血球製剤はほぼ全て血管内に分布している。
輸液に含有されているナトリウム、水以外の組成(カリウム、糖)は病態に応じて必要かどうか決まる。
輸液の目的と分類
輸液療法は、大きく以下の4つの目的に分けられます。
種類 | 特徴 | 適応疾患 |
---|---|---|
① 血管内の水分補充(fluid resuscitation) | 急性の血管内脱水(ショック)に対して行う | 出血性ショック、敗血症性ショック、心原性ショック |
② 維持輸液(routine maintenance) | 経口摂取が不十分なときに、基礎的な水・電解質を補う | 経口摂取困難時(発熱、食事摂取不能など) |
③ 水・電解質の補充(replacement) | 消化液などの喪失を補う | 下痢、嘔吐、胃液吸引、消化管瘻など |
④ 再分布(redistribution) | 血管外へ漏れた水分・電解質を補正 | 低アルブミン血症、術後、ARDSなど |
Fluid Resuscitation(血管内容量の補充)
ショックが疑われる場合のチェックポイント
- 脈拍数 > 90 bpm
- 収縮期血圧 < 100 mmHg
- 毛細血管再充満時間(CRT) > 2秒
- 意識レベルの低下
- 四肢冷感やチアノーゼ
- 尿量
Routine Maintenance(体液量・電解質の維持)
適応:
- 脱水・出血がなく、経口摂取が困難な場合
目安:
- 25〜30 mL/kg/日の水分補給
- Na 1〜2 mEq/kg/日
- K 0.5〜1 mEq/kg/日
- ブドウ糖 50〜100 g/日(低血糖・ケトーシス予防)
Replacement(電解質・水分の喪失補填)
対象:
- 消化液・体液の喪失がある場合(例:胃液、胆汁、膵液など)
喪失部位 | Na (mEq/L) | K (mEq/L) | Cl (mEq/L) | HCO3⁻ (mEq/L) |
---|---|---|---|---|
胃液 | 20–60 | 14 | 140 | 0〜15 |
腸液 | 140 | 5 | 56 | 8~30 |
胆汁 | 145 | 5 | 105 | 30 |
下痢 | 30~140 | 30~70 | – | 20~80 |
→ 補液内容を失われた液に応じて調整し、Na/K/Cl/HCO₃⁻を適切に補う必要があります。
Redistribution(再分布)
再分布異常が起こる状況:
- 術後
- 低アルブミン血症
- 敗血症・炎症性疾患
例として、腹水や胸水への移行により血管内脱水を伴う状況では、アルブミン製剤などのコロイドも考慮されます。
合併症とその予防
合併症 | 予防策 |
---|---|
電解質異常 | 定期的な採血でモニタリング、補液の調整 |
高血糖 | インスリンの適正使用、ブドウ糖濃度の調整 |
体液過剰 | 体重・バイタル・胸部レントゲンでの評価 |
せん妄 | 不要な夜間輸液や過剰補液を避ける |
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