低ナトリウム・低Na血症 KIM

低Naについてあれこれ

今回は電解質異常の中でも低ナトリウム血症について考える。

症状としては嘔気、錯乱、頭痛が多く、ひどいと嘔吐、強い傾眠、痙攣、昏睡となる。

平素慢性的にNa128の人が124になったとkろおでそこまでの変化率にならず、すなわち有症状化せず急性電解質異常とはならないだろう。

普段Na137くらいで正常値の人が、ある理由で数日のうちにNa137-129-124などと低下が進行すれば、場合によっては例えば頻回嘔吐と傾眠を呈するなどして深刻に有症状化しうる。

有症状の低Na血症を認識した後、対処を始める前に薬剤歴を必ずチェックする。

何故なら、有症状化するほどに顕著かつ急性進行する低Na血症は薬剤世のことが多いからである。

具体的な薬剤は、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)を引き起こす薬剤たちがそれに相当する。具体的には抗てんかん薬(カルバマゼピン、ラモトリギン、バルプロ酸)、精神科診療で使用される薬(デュロキセチン、SSRI、三環系抗うつ薬)、抗腫瘍薬(シスプラチン、ビンクリスチン、L-アスパラギナーゼ)

低Na血症の急性電解質異常を呈するもう一つのよくある状況は、精神疾患などがあり常軌を逸した心因性多飲のために、慢性化つ顕著な低Na血症出会った患者が更なる多飲によって急速に低Na血症が進行してしまった場合である。

例えば、平素から長期間Na122などであった人が短期的で猛烈に多飲し109とかになって痙攣で搬送される、などである。

薬剤性の場合の(薬剤の中止以外の)対処は、(咄嗟に生食をたくさん入れたくなるが)病態がSIADH的であるため基本的にはvolumeを入れないということが重要である。

慢性低Na血症の急性増悪については、普通は入院中の患者には起こらない。救急搬送・受診例で多く、あまりの低Na血症の酷さに(というか意識障害のために)入院することになるが、入院しただけでNa値も症状も改善には向かう。極端な多飲という行動が一応管理されるからである。

よって例えば、集中治療の専攻医(後期研修医)が好きそうな「欠乏量を計算し3%食塩水を作り持続注射で補正する!」などの知識ベースの実践などは即時しなくて良い。患者のNaはこれ以上薄まって欲しくないが医者の意識はもっと低めた方がいい。というか、もう少し常識的に考えた方がいい。

何故なら、有症状化するほどに多飲をする人というのは、常人では考えられないほどの量を多飲しているからで、我々とは世界が全く異なるからである。

例えば、1日16リットルもの水を飲んだりする。意識の高い医師のいっときの理屈など容易に粉砕してくるのが彼ら・彼女らである。

実際にはしないが極論すると、1日12リットルもの飲み物を飲んでいた低Na血症の人が痙攣と昏睡で入院し、5%ブドウ糖で1日2リットル輸液する計画を立てたとする。この時、ひどい低Na血症であるのに5%ブドウ糖液なんて入れていいものかと思ってしまうが、1日12リットルから2リットルへ一気に10リットルもの自由水intakeを抑制することになるので、血清Na値は下がるどころかむしろおそらく急に上昇することが予想される。

Naを含まない輸液計画なのに、血中Na値が上昇するのである。これはNa値の異常を見るときは、Naを見る時よりも水(自由水)の挙動を見る方が大事であることを理解するために良い例である。

薬剤性SIADHによる低Na血症患者への輸液計画上の注意点であるが、いくら有症状の低Na血症といっても生理食塩水を大量に輸液してはならない。

どこが不適切かといえば、生理食塩水ではなく「大量に」の部分である。血清Na値を下げようとして、Na含有の点滴製剤を何本も入れようとしてはいけないのである。

大量の飲水患者の低Na血症は、とにかく入院管理が成立すればそれだけで改善に向かう。何故ならその低Na血症の原因は、常軌を逸した飲水行動にあるからである。

意識障害のため絶飲食・点滴管理になる、などはむしろ好都合なくらいである。まさか1日10リットルも点滴するわけはないだろう。補正などと言って息巻かず、普通に生存のための輸液を組めばどんどん改善する。

血清Na値の改善スピードが速いことをヒステリックなまでに神経質になる者がいるが、この場合あまり気にしなくていい。何故なら患者はひどい低Na血症で一度死にかけたのである。

これは、急性に進行する深刻な低Na血症を一気に補正した。という構図であり、そこまで悪いことではない(避けるべきは、慢性の低Na血症で症状もなく穏やかな状態でいるところへ、急にNa補正を図ることである)。

「気にしなくていい」と言ったのは、一切という意味ではなく、初めから気にしなくていいという意味である。

初回の評価で「これはNa値の上がりが早すぎたな」と思えば当然その時点で気をつけるべきで(今更だが浸透圧性脱髄症候群のことである)、再び低Na血症に傾けるよう誘導することも検討する。

慢性電解質異常としての低Na血症の原因・要因は多いが、「抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)」の項で後述する通り「SIADHの診断過程は低Na血症の鑑別プロセスそのものである」という点が重要である。ちょうど今のこの慢性電解質異常としての低Na血症を考える文脈にも当てはまる。

すなわち、一見極論にはなるが慢性低Na血症の鑑別では、「SIADHかどうかだけが重要」とも言える。

低Na血症の雑多とも言える鑑別プロセスのうち、SIADHかどうかを見極めることを強固な軸(思考の道筋)として考えると、目の錯覚なのか、雑多だったはずのものが急にスッキリしてくるのである。

低Na血症を見たら、(NaClを投与するのではなく)尿検査を行い、尿中Na、尿浸透圧を測定する。

慢性低Na血症で見つかる病態の一つに副腎不全(原発性あるいは下垂体機能低下症による続発性)があるが、実は副腎不全はSIADHと診断するための除外疾患に相当する。

確かにSIADHの診断のためには副腎不全は除外は必要であるが、SIADHをあえて初期から推定することによって慢性低Na血症の鑑別診療の全体の見通しをよくすることができるという多大なメリットについてである。

診断ではなく初期判断だから、副腎不全の除外は必須ではない。SIADHを真っ先に考えることで、見通しとしての臨床的な視点がスッキリする。この臨床感覚をぜひ身につけてほしい。

とはいえ副腎不全は慢性低Na血症の有名な鑑別疾患の一つであり、いざこれを疑う段となったら具体的に検討を行う。

抗利尿ホルモン不適合分泌症候群について(SIADHについて)

血漿浸透圧が低下、すなわち体が薄まった状態においては、健常者では「薄い尿をたくさん出す」ことで適応する。

しかし抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)患者では、この「薄まった」という状況下にあってもアルギニン・バソプレシン(AVP)分泌の抑制がかからず、「薄まっていない尿」しか出ない。

この時の尿には特徴がある。①低いはずの尿浸透圧が状況に見合わず低くなっていない(不適切に濃い)、②本来抑制されるはずのNa排泄が抑制されず不適切に多く排泄されている この2つである。

これらは血中Naの濃度にも影響が出る。自由水の排泄が低下してしまっているため体が「薄まったまま」となり、血漿浸透圧低下とともに低Na血症となってこれが持続する。

水・Na代謝におけるこれらの挙動はやや特異的であるため、臨床ではしばしばSIADHを先に見つけることになる。これによって背景で起こっている病態(SIADHの原因)が判明することがある。

具体的には、中枢神経疾患、肺(胸腔内)疾患、悪性腫瘍、薬剤性が有名であり頻度も高い。

原因が判然とせず、それがもし高齢者なら「高齢」が理由のこともある。

血液検査上の低Na血症が、SIADH診断の端緒になることがほとんどである。

稀に、嘔気・嘔吐が先のこともある。ただこの場合も、その原因精査で採血をして低Na血症がわかるので同じことである。

低Na血症の原因のうち、発見・特定して臨床上もっとも有益であるのはSIADHである。他は浮腫だの利尿薬だの肝硬変だの慢性心不全だの、その場でジタバタしてもしょうがないものばかりである。

よって低Na血症の鑑別をすることは、SIADHの診断を試みることを意味する。

裏を返せば、SIADHの診断過程は、低Na血症の鑑別プロセスそのものであるとも言える。少なくとも臨床ではそうである。臨床家は、低Na血症の診断アルゴリズムを暗記していない。

本質的なことになるが、低Na血症を見たら(NaClを投与するのではなく)尿検査を行う。これは絶対である。

低Na血症を見たら、尿中Na、尿浸透圧を測定する。

低Na血症であるのに、尿中Naが正常あるいは排泄亢進していたら、異常であると判断する。

普通(=SIADHでない)なら、低Na血症という状況下では、尿浸透圧は低くなっていないとおかしい。薄まっていると想定している体に対して、薄くない尿が出てしまっていたら、もっと体が薄まってしまう。

SIADHでは尿浸透圧は上昇あるいは「不適切に正常」となっている。

当然SIADHでは尿中Naの排泄が亢進していて、多くの場合随時の尿中Naが20mEq/L以上となっている。低Na血症という状況下にあってこれはおかしい。

ここまでで、ラボの検査によって比較的迅速にSIADHが疑わしいという見立てが進む、あるいは完了する。

SIADHを確定させるためには、甲状腺機能低下と副腎不全を否定する必要があるので適宜検査などを行う。

SIADHを診断するプロセスと同時にSIADHの原因を探ることもする。

薬剤歴、脳や脊髄疾患の有無、胸部異常影(肺疾患)の有無はすぐにチェック可能である。

年齢や状況に応じた悪性疾患の検査も適宜行う。

血清尿酸値にも注目する。SIADHでは低くなっている。

SIADHが疑わしい中で測定された血清尿酸値が4未満のとき、SIADHの可能性を上げる。

尿酸排泄が亢進されているとされ、FEuaが10%を超えていると疑わしい。また、排泄が抑制(<8%)されていたらSIADHらしくない。

SIADHの経過と治療

経過

SIADH自体、症候的疾患であるため、予後という概念はない。

薬剤性の場合は低Na血症の進行がやや急である印象がある。

高齢者のSIADH疑いは、複合的であることがほとんどで、病態を掴みづらい。

治療

原因疾患の治療や原因薬剤の除去を行う。

過剰な水分摂取や点滴は、しっかりと制限する。

高齢者のSIADH疑いは、複合的であることがほとんどで、どう治療していいかよくわからないことが多い。

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Dr.こうじろう
1992年生まれ、関西出身。幼少期の喘息経験から医療に興味を持ち、地元大学の医学部を卒業後、研修医を経て総合診療医として地域医療に貢献。医療と介護の連携を重要視し、経済やマネジメントの知識も学びつつ、「最適化された医療を提供する」ことをモットーに従事する。趣味は筋トレ、テニス、ウイスキー収集。医療に関するニュースや日々の診療ですぐに実践できる知識を発信するブログ。