概要
下部消化管出血といえば憩室出血と言えるほど、憩室出血の割合が増えてきている。
60歳以上では憩室出血が1位である。年齢とともに割合も増えるが、リスクや重症度も増えていく。
下部消化管出血は、上部よりも死亡率が低く、自然に出血が止まる傾向が強い。
憩室出血のほかは、痔核、虚血性大腸炎、大腸癌、直腸潰瘍、血管拡張症、他の大腸炎、内視鏡処置後、原因不明などがある。
憩室出血は、調査の仕方にもよるが、ざっと30〜50%は占める非常にコモンな原因で、大腸癌は数%〜10%前後と思いのほか少ない。
憩室出血の次は虚血性腸炎が多いが、10〜20%ほどであり、また出血自体は自然軽快しやすい。そもそも出血よりも腹痛が問題になりやすい疾患である。
憩室出血は、既往があれば発症しやすい。反復する傾向のある疾患である。1年以内では20〜30%前後が再発している。
内視鏡的な止血処置をするほどの憩室出血例では、4人に1人は1ヶ月以内に再発している。
憩室出血の重症化は、65歳以上、飲酒・喫煙、抗血小板薬・抗凝固薬の服用、NSAID使用、高血圧症、肥満、慢性腎不全などがリスク因子として知られている。
下部消化管出血では、緊急内視鏡の必要性は乏しいと思える場面が多い。
循環動態が不安定、内視鏡処置後の出血、のように緊急内視鏡が必要である場面は限定的である。
下部消化管出血という切り口で見れば、「ほとんど憩室出血、残りはその他いろいろ」であり、下部消化管出血の特徴=憩室出血の特徴、と言えるほどである。
軽症な憩室出血以外は、専門医と協働した方が良いため、憩室出血について抑えることが肝となる。
疑い方
下部消化管出血かは状況からわかりやすいことが多い。
ただ、血液そのものを肛門から排出したのか、ほとんどがいつもの便である程度の血液の付着があったのか、下痢様で血性の傾向があったことなのか、トイレットペーパーに付着した血液のことなのかなど、患者の訴えだけで受け取ると内訳が不均一になる。
とはいえ患者の訴えだけが頼りだという場合がほとんどであり、まずはちゃんと時間を割いて状況を描写してもらうことが重要である。
便の中に凝血がある場合は、上部よりも下部だと見做しやすい。
頻度の多い憩室出血の特徴を覚えると良い。とにかく、「憩室出血の既往・中年以上・腹痛なしの急な鮮血の下血」である。
憩室出血が疑わしいとしても、先述した重症化因子のうち複数を満たす場合や、併存疾患や出血以外に起因する身体状況によっては(軽症・自然停止の傾向が強い憩室出血といえども)入院を考慮する。
造影CTは、憩室出血だった場合に出血源が同定しやすいというメリットがある。
他には、他疾患や併存疾患の鑑別に有用といえば有用である。特に初回の下部消化管出血では、憩室出血だと思えても、実施しておいて損はない。
結腸憩室を探し、単純、動脈相、遅延相を見比べて、造影剤漏出あるいは漏出部位を同定する。
内視鏡前に大体の出血源の所在がわかっていることは、内視鏡の精度を上げる。
脳血管障害や骨折によって、長期間仰臥位の寝たきりになっている高齢者に、突然無痛性かつ新鮮出血の下血で発症する直腸の潰瘍性疾患があり、急性出血性直腸潰瘍として知られている。
高齢、動脈硬化、姿勢などによって、下部直腸の粘膜血流低下が発症の基礎になっていることが多い。
止血すればこの疾患自体の予後は良いらしいが、もともと患者自身の状態が思わしくない患者が多い。大量の下血となることもあり、原疾患への影響は大きい。
軽症だと、憩室出血と見分けがつきにくい。
経過
そもそも下部消化管出血という疾患というよりある意味症候である。
出血そのものより、併存疾患や出血前の身体状況によって予後が異なる。
出血自体は自然に停止する傾向が強いが、必ずそうとは限らない。
特に初回のエピソードでは、可能な限り専門医に紹介して、内視鏡検査につなげておきたい。
憩室出血はコモンであるため、良性経過で自然に軽快してしまったケースを多数経験してしまうこともあって、成功バイアスがかかりやすい。しかし、頻度が高いということは、バリエーション・まれなパターンとの遭遇機会も多いということになる。
憩室出血だろうとわかっていても、専門医に一度診せておく方針にするのは悪くない手である。
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