くも膜下出血 KIM

概要

脳動脈瘤の破綻により出血がくも膜下腔に広がり、症状としては突然の頭痛で発症する脳卒中である。

くも膜下出血は脳卒中全体の1割を占める。出血の要因は、もやもや病や脳動静脈奇形が基盤になることはあるが稀で、破裂脳動脈瘤が圧倒的に多い。

血管の破綻後は、くも膜下腔、すなわちくも膜と軟膜の間に血流が広がる。

くも膜下出血の疫学はやや捉えにくいところがあるので、まずざっくりと考える。「40歳以降の成人に多く、男性より女性の方が多い」である。

60歳くらいがピークであり、以降高齢になるにつれて女性の比率が明らかに高くなる。

これには女性ホルモンの低下ないし枯渇が関与しているらしいが、家族歴がリスク因子ではあり、個人的には「くも膜下出血や大動脈瘤などの大動脈疾患の家族歴がある閉経前後の女性」は最も警戒する群に入ると認識している。

実臨床では、あまり絞らずに「働き盛りの中年など割と若い人に多い」と捉えておく。

動脈瘤の好発部位とその割合は、内頸動脈ー後交通動脈(IC-PC)分岐部と前交通動脈(Acom)で60%、中大脳動脈(MCA)が20%で、残りがその他(眼動脈起始部や海綿静脈洞部の内頸動脈が、脳底・椎骨動脈など)である。

破裂部位によって、出現する神経症状やCT初見が変わってくる。

IC-PC分岐部では動眼神経麻痺、Acomでは記憶障害、精神症状、あるいは下肢麻痺、MCAでは片麻痺、失語、感覚障害、意識障害などである。

walk-in SAH

頭痛のエピソードがあったが軽度であった、あるいは強い頭痛があったが軽減した、頭痛に嘔吐を伴ったので念のため受診した、など自力で日中の通常の一般外来を受診するくも膜下出血がある。

あるどころか驚くほど多く、くも膜下出血確定例のうち30%はいわゆる「walk-in SAH(独歩で受診するくも膜下出血)」だったという集計もある。

このことは、くも膜下出血の診断の遅れにつながる要因となる。自力歩行で、強くはない頭痛で(すでに軽減していて)、となると患者も医師も要するに油断する。

歩いてくるくも膜下出血の40数%の症状が「頭痛のみ」だったとされ、また症状は症から受診までの時間は平均2.2日と数日は経過していた。

初診で診断されなかったくも膜下出血例の検討では、発症日をday0とすると、くも膜下出血と確定されたのはday2が一番多かった。

嘔吐を伴っていると患者は比較的すぐ受診しやすいが、逆に医師が「胃腸炎」としてしまいがちで誤診は増える。「脳卒中=麻痺症状」ではないことをあらためて認識し直したい。

くも膜下出血は、見かけの重篤さ・軽さや、受診までに経過した時間などによらず、「突然の頭痛」が特徴である。「突然の頭痛」を訴えた患者全例にくも膜下出血を疑い、頭部CT実施に繋げるべきである。

そのとき「頭痛とともに嘔吐した」は有力な付加情報であり、重視する。

頭痛が主訴とならず、「(突然の)嘔吐のみ」や「急な肩こりが主訴」のくも膜下出血も稀ながら存在する。

経過の流れも重視する。「頭痛と嘔吐で近医を受診。胃腸炎だろうと経過観察される。治らないので再度受診した」という経過のうち、「再度受診した」という部分を重くみる。もちろん「胃腸炎」は「偏頭痛」に置き換えてもいい。

「治らないのでまた来た」は、くも膜下出血の診断を検討する上で普遍的に重要なサイン(次なる手がかり)に昇格させてよいと私は考えている。

「突然の頭痛と嘔吐があり様子を見ているうち軽減したが、いまいちなので2日後の朝に医療機関に独歩で受診した」は、くも膜下出血を疑う。どのあたりが?とかではなく「」そのものがくも膜下出血の典型的な経過らしいと思えるようにならねばならない。

minor leakで発症し(一度受診していたのに捕捉されず)再出血で重篤化して後遺症を残す、あるいは生命を失うというのが、切ないがよくある経過である。

まとめると、頭痛の強度や重症度の軽重によらず「突然」という発症様式なのかどうかが重症であるため、まずは突然かどうかについてフォーカスを当て病歴をとる。突然かどうかが片付くまでは他の情報はノイズになるのであえて入れない。「突然」であればCTを撮る。ただし嘔吐は有力な随伴症状である。

「人生最大の頭痛」「バットで殴られたような頭痛」といった古典的ともいえる記述は、もはや捨てるべきである。人生最大の頭痛なら普通救急車を呼んでいるだろうし、人は普通バットで殴られない。

臨床医の役割は、際どいケースを拾い上げることである。

疑い方

繰り返すが、「突然の頭痛」はCTを撮る。

「突然かどうか」は、頭痛が起きた時に何をやっていたかを具に聴取することで確かめられる。

その一場面を、映像化できるくらいまで(人に伝えてその場の様子が自然に浮かぶようになるまで)聴取する。例えば次のエピソードくらいまでは詳細に状況を確認する。

「突然の頭痛」の例

ゴルフの打ちっぱなしに行って、初めの2、3球打った後に急に頭の後ろが痛くなった。スイングでひねったせいかなと思って休もうと椅子に座った途端に1回嘔吐した。続きをやろうと思ったが、打ちっぱなしの職員が心配し「お金もキャンセルでいいので」と言ってくれたのでボールを返却し、帰宅。その日は自宅で休養した。

「突然」を捉えるには、関心部分を時間で「微分」するのが一番で、症状が起こった前後関係の詳細を取材することで可能となる。

見方を変えれば「突然発症であればあるほど、その時の様子を本人が細かく語ることができる」ともいえる。細かな状況を患者に尋ねて、みるみる細かく語ることができたなら、それが詳細であればあるほど突然発症だった可能性が高い、というわけである。

なお、上述のゴルフの打ちっぱなしの中に具合が悪くなった人のエピソードの続きとして、「翌日大丈夫だったので仕事に行ったが、頭が痛い感じが続くのと嘔気があるため翌朝近くのかかりつけを受診した」となれば、さらに怪しい経過といえる。

すでに述べたことだが、頭痛の程度や患者の具合の悪さよりも、突然発症だったかどうかを問題視する。

血圧は上昇していることが多いが、正常であることをもって否定できない。

嘔吐は、随伴すればくも膜下出血の可能性は高まるといっていい。

救急搬送例、意識障害(意識混濁、精神変容など)、明確な神経症状、極端な血圧上昇(240/140mmHgとか)などがあれば、迷いなく疑えるし最低でもCT撮影には至るものと思われる。

CT所見にも、症状同様やや幅広いバリエーションがある。

鞍上部脳槽を中心に両側に広がる高吸収域、いわゆるペンタゴンが一見して分かれば簡単だが、実際にはもっと軽微な所見もある。

シルビウス裂には注目する。片側のシルビウス裂だけにわずかに見られる高吸収域は左右を見比べて少量でも見逃さないようにする。

この所見が両側のシルビウス裂に均等に存在するために見かけ上、左右差がないように見えることもあるので注意する。

実際にはこれよりも所見が淡いケースが存在する。片側のシルビウス裂が対側に比べて「消失」している(あるいは描出されていない、目立たないなど)だけの場合もある。

出血かもしれないと思って画像を見ていると、無意識に高吸収域(白いところ)の有無だけを探してしまう読影をしてしまうが、濃淡や形態の左右差にも注意を払う。

読影時に違和感を覚えた時、病歴がくも膜下出血らしければ、くも膜下出血があるものとして対応する。

そのような場合、すなわち、CTで判然としなかったが、病歴が「昨日、10分ほどの短時間で一気にピークに達した頭痛を感じ一度治ったが、翌日に受診した」などのようにくも膜下出血らしさがあるなら、次はMRIに通常は進むことが多く、また強くそうするべきである。

腰椎穿刺を検討するレベルのケースであれば、脳神経外科にコールすべき状況である。

施設にもよるが、軽症あるいは病歴が長いのであればMRAも同時撮像できるMRIをCTよりも優先する、という考えもあるだろう。

とにかく、くも膜下出血を疑ったなら「一点の曇りもない否定」ができるまではくも膜下出血かもしれないと言い続けることが大切である。

くも膜下出血が、深刻な疾患だということのみならず、「軽症もある」「診断困難な例もある」ということを知る医療者の仲間を増やすことは重要であろう。

経過と治療

経過

診断後は即紹介であるので、実地医家・非専門医が経過をみたり、治療介入したりすることはないだろう。

「軽症だからオッケー」とはならないところがこの病気の怖いところであり、再出血を許せば非常に予後が悪い。

治療

くも膜下出血の診断がつき、破裂部位が確定されればすぐに手術となる。

血圧は管理されるべきであり、120mmHg未満にする。

開頭脳動脈クリッピング術、脳動脈瘤コイル塞栓術があり、各施設でアプローチは異なる。

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Dr.こうじろう
1992年生まれ、関西出身。幼少期の喘息経験から医療に興味を持ち、地元大学の医学部を卒業後、研修医を経て総合診療医として地域医療に貢献。医療と介護の連携を重要視し、経済やマネジメントの知識も学びつつ、「最適化された医療を提供する」ことをモットーに従事する。趣味は筋トレ、テニス、ウイスキー収集。医療に関するニュースや日々の診療ですぐに実践できる知識を発信するブログ。