胃・十二指腸潰瘍 KIM

概要

胃あるいは十二指腸粘膜が欠損した病態を指し、胃潰瘍・十二指腸潰瘍を消化性潰瘍と一括して総称する事が多い。

粘膜欠損のうち、「潰瘍」は粘膜筋板を超え粘膜下層以深の欠損のことを指し、それより浅い粘膜のみの傷害を「びらん」と呼んでいる。

消化性潰瘍の2大原因は、ヘリコバクターピロリ感染と、低容量アスピリンを含む非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)などの薬剤によるものである。

日本の消化性潰瘍の罹患数は減少傾向を示している。

ヘリコバクターピロリ感染率は減少し、潰瘍の総数が減少しているためである。

厚労省の統計による胃潰瘍・十二指腸潰瘍の推定患者総数の推移が興味深い。

1996年13万4000人、2008年5万7300人、2020年1万4300人と「減少の一途」と言うには言い方が弱すぎるくらい、まさに激減している。20年で10分の1であり、減少する速さも速い。

減少の理由としてヘリコバクターピロリ感染の減少のほかに制酸薬の普及も考えられる。

他方、超高齢化に伴ってNSAIDの処方機会の増加による薬剤性潰瘍の割合が増加している。

また、雑多な病因による潰瘍(クローン病、梅毒、好酸球性胃腸炎、コントロール不良の精神疾患の影響など)の割合は相対的には増えているようだが、それよりもヘリコバクターピロリ感染でも薬剤性でもなく、そして想定される原因が否定された特発性潰瘍(idiopathic peptic ulcer)の割合が増えてきている。

いわば不明熱ならぬ「不明潰瘍」といったところである。しかしこれを直接的に扱うことは一般的でないため、2023年時点では、増加しているNSAID潰瘍について掴むのが実臨床上の要点となるであろう。

疑い方

上腹部痛、悪心・嘔吐、食指不振、腹部膨満感などを認めた場合は疑う。

さらに吐血や下血を認めた場合には、出血を念頭に上部消化管内視鏡を行う。

これらは正論だが、NSAID潰瘍の比率の増加を受けて、症状から消化性潰瘍を疑うということが必ずしもできなくなってきている。NSAID潰瘍では、いわゆる胃痛や食指不振が乏しい・目立たない。あるいは伴わないことがむしろ多いからである。

症状の精査ではなく、貧血の精査から発見されたり、いきなり消化管出血で発症したりするケースも多い。

消化性潰瘍を疑ったら、血液検査により貧血、血中尿素窒素/クレアチニン比(BUN/Cr比)開大の有無を確認する。

腹膜刺激症状がある場合は、腹部単純CTでフリーエアの有無を確認する。

緊急上部消化管内視鏡の適応の判断をするとき、直腸診、胃管チューブ挿入後の吸引などによって「血液」を直接確かめるという「作法」は、その重要性を否定する意図は全くないが、胃痛でひどく苦しんでいる人や軽い吐血とはいえ、もう「血を吐いた」という事実がある人に対して、あえてそれらを施行する意義が個人的には乏しいと思える経験が多かったので、本書では推奨しない。

重要であるのはわかるが、直腸診、胃管チューブ挿入によってなされた血液の確認のみで内視鏡施行を決定しているようには思えないからである。(実際にはちゃんと総合判断している)

経過と治療

経過

日本のごく日常的な診療として、典型的症状や進行性の貧血、吐血・下血をきたしている患者に対して、内視鏡をしないという選択肢はとられづらいため、消化性潰瘍を放置し続けるとどうなると言う情報が少ない。

ヘリコバクターピロリ除菌によって、潰瘍・癌の発症を減少させる事ができるが、最近の話題は非ヘリコバクターピロリ・非NSAID潰瘍にあり、ピロリ除菌がされた後の世界に関心があるようである。

「除菌後胃がん」などという、非専門医にとっては正直甚だ謎な概念が跋扈しつつあり、戸惑いが隠せない。

治療

活動性出血には、止血を行う。

NSAID服用中であれば、原則中止する。

ヘリコバクターピロリ感染消化性潰瘍であることがわかれば、初回治療が除菌治療でも良い。

一次除菌では「PPIあるいはボノプラザン+アモキシシリン+クラリスロマイシン」が保険適応となっている。

除菌治療をしない場合はPPIを使用する。

個人的に非常に興味深い事柄が、低容量アスピリンなどによる抗血栓療法施行中の出血性潰瘍への対応である。

ガイドラインでは、この場合、原則中止し止血されたら速やかに再開するべき、というステートメントになっている。

そのまま休薬を続けることを推奨していないところが興味深く、血栓症のリスク(抗血栓療法をしている理由)を層別化して、高いリスクを持つ患者には安易な休薬を避けて慎重に対応する事が提案されているという。

DAPT(抗血小板薬2剤併用療法)はアスピリンだけとし、抗凝固薬も、いったん休薬→すぐ再開というのが大まかな方針となっている。

除菌に関する話題

二次除菌では「PPIあるいはボノプラザン+アモキシシリン+メトロニダゾール」を使用する。これも保険適用となっている。

二次除菌でも除菌されないときは専門医に紹介する。

2024年ガイドラインでは、胃生検検体を使った薬剤感受性試験を除菌前に行うという推奨になっていて、この結果でもしクラリスロマイシン耐性の場合には、一次除菌からメトロニダゾールを含めたレジメンで一次除菌を開始できる。

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Dr.こうじろう
1992年生まれ、関西出身。幼少期の喘息経験から医療に興味を持ち、地元大学の医学部を卒業後、研修医を経て総合診療医として地域医療に貢献。医療と介護の連携を重要視し、経済やマネジメントの知識も学びつつ、「最適化された医療を提供する」ことをモットーに従事する。趣味は筋トレ、テニス、ウイスキー収集。医療に関するニュースや日々の診療ですぐに実践できる知識を発信するブログ。