入院判断の6つのポイント

はじめに

研修医に「どのような患者を入院させるべきか?」という質問を受けることがあり、自分の経験を振り返ってみると、これまで体系的に考えることは少なく、感覚的に判断していた部分が多かった。今回「ジェネラリストのための外来診療のコツ」で紹介されている入院判断の6つのポイントをもとに自分なりの経験や考えを加えてみた。

患者を入院させるかどうかの判断は、医師として極めて重要なスキルの一つであり、単に感覚に頼るのではなく、論理的かつ一貫した基準を持つことが求められる。

この文章を読めば、入院させるかどうかで悩んでいることを、より明確化、言語化でき、何を根拠に判断すべきかが明確になるだろう。

研修医にも伝わるような、より明確な判断基準を提示できるようになりたいという思い書いてみた。

入院判断の6つのポイント

  1. 病状が不安定な患者やリスクが高い患者 
    最も重要なのは、患者の病状が急速に悪化するリスクがある場合。呼吸不全、心疾患、重篤な感染症など、外来治療では管理が難しいケースでは入院が必要となる。特に高齢者や複数の持病を抱える患者は、わずかな病状の変化でも重大な結果を招く可能性がある。
  2. 外来や自宅で行うことができない検査・処置・治療 
    特定の検査や処置、たとえば精密な画像検査や専門的な治療が必要な場合は、自宅や外来では実施が難しい。そのため、診断や治療のために入院が必要なケースも多い。
    具体的には点滴治療、酸素投与、侵襲的な検査などが挙げられるだろう。
    以前まではCOVID19に対するレムデシベルなどが代表例だろう。
  3. 検査値異常 
    血液検査や尿検査などの結果が大幅に異常を示している場合も、入院を考慮する。例えば、電解質異常などは心停止につながるリスクがあり、本人が「(比較的)元気」「帰宅希望」などあれば、少なくとも入院してもらうことを勧める方が無難だろう。
  4. 患者要因 
    入院の希望や生活環境も重要な要素。患者が入院を希望しているか、自宅や施設の環境が入院をサポートできるか、病状を理解し、悪化した際に再診が可能かを考慮。特に、病院が遠くアクセスが難しい場合は、通院ではなく入院が適していることがある。
    一方で逆に他に病状の不安定や外来でできない治療、検査値異常などがない場合は、次に説明する入院のデメリットを理由に入院しないことを推奨するのがベターだろう。

    また地域によっては「病院への入院」は心理的ハードルが少ないが、「施設への入所」は心理的ハードルが高く、施設に入ってくれないけど、入院させてほしいということを経験することがある。近所への体裁など考えることもあるのかもしれない。この場合でも、やはり他の要因で入院の適応がないのであれば、入院という選択をすべきではないだろう。
  5. 入院のメリットとデメリット 
    入院には治療のメリットがあるが、長期入院による筋力低下や日常生活能力の低下(廃用症候群)のリスクも考慮する必要がある。入院によるベネフィットがリスクを上回るかを常に考える必要がある。特に高齢者は、長期入院による体力低下が退院後の生活に影響するため、短期入院で済むかも重要なポイントである。
    この他に入院によるデメリットとしては、「せん妄」だろう。自宅から病院という急激な環境変化に「混乱状態」となる。他の入院理由がないのであれば、これも入院の大きなデメリットである。
  6. 病床の事情 
    病院の病床の空き状況も現実的な制約。入院が必要だと判断されても、病床が埋まっていれば入院は難しい。他の病院を探すか、外来での治療を続けながら病状の変化に対応する必要がある。

以上6つのポイントが主に入院か外来かを判断する軸になるだろう。

入院させておくべきという唯一解は存在しない。医療者、患者本人、家族それぞれが「納得」してどうするかを決める必要がある。

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Dr.こうじろう
1992年生まれ、関西出身。幼少期の喘息経験から医療に興味を持ち、地元大学の医学部を卒業後、研修医を経て総合診療医として地域医療に貢献。医療と介護の連携を重要視し、経済やマネジメントの知識も学びつつ、「最適化された医療を提供する」ことをモットーに従事する。趣味は筋トレ、テニス、ウイスキー収集。医療に関するニュースや日々の診療ですぐに実践できる知識を発信するブログ。