はじめに
マイコプラズマ肺炎は、主に咳や発熱を訴えることが多い非定型肺炎の一種。通年で発症することが多く、一般的な疾患とされている。欧米の罹患率調査では、年間で感受性人口の5~10%が感染するとの報告もある。日本国内の感染症発生動向調査によれば、晩秋から早春にかけて発症が増え、特に幼児、学童期、青年期に多い。病原体の分離例では、発症ピークが7~8歳にみられる。
2024年現在、マイコプラズマ肺炎が明らかに以前に比べて流行している。
https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/mycoplasma/mycoplasmaより引用
東京都の例ではあるが、明らかに2024年の発症数が多いのがみて取れる。例年より流行している理由としては、いくつか考えられているものがあるが、例えば新型コロナウイルス感染症の感染対策緩和によるものや、マイコプラズマ肺炎と気づかずに他人に感染してしまうなどがありうる。
臨床症状
潜伏期間は2~3週間で、発熱、全身倦怠、頭痛といった初期症状を呈する。咳は症状出現後3~5日から始まり、当初は乾性だが徐々に強まり、解熱後も3~4週間にわたって続く場合がある。年長児や青年期には湿性の咳になることが多い。鼻炎症状は一般的ではないが、幼児においては頻度が高い。嗄声、耳痛、咽頭痛、消化器症状、胸痛などの症状も現れ、皮疹の発症率は6~17%と報告にばらつきがある。喘息様の気管支炎を呈する例も多く、急性期には約40%の患者に喘鳴が認められる。さらに3年後に肺機能を評価した研究では、対照群に比べ肺機能が有意に低下しているという報告も存在する。マイコプラズマ肺炎は、「異型肺炎」として肺炎にしては元気であるとされることが多いが、重症化し胸水が貯留する例もある。
合併症には、中耳炎、無菌性髄膜炎、脳炎、肝炎、膵炎、溶血性貧血、心筋炎、関節炎、ギラン・バレー症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群などが含まれる。
診断と所見
理学的所見では乾性ラ音が聴取されることが多い。胸部レントゲンでは異常陰影が認められる場合もあるが、聴診では異常がないこともあるため、レントゲン検査が重要とされる。びまん性のスリガラス様陰影が特徴とされるが、実際にはウイルス性やクラミジア性肺炎に多い。マイコプラズマ肺炎では大葉性肺炎像、肺胞性陰影、間質性陰影といった多様な所見が観察される。血液検査では白血球数が正常もしくは増加し、赤沈の亢進、CRPの上昇が認められる。また、一過性にASTやALTが上昇することもある。寒冷凝集反応はほとんどの患者で陽性となるが、特異的ではないため補助的な診断に用いられる。
病原診断
確定診断には咽頭拭い液や喀痰からの病原体分離が求められるが、培養には1週間以上かかるため臨床での利用は難しい。近年ではPCR法が迅速診断法として開発されているが、実施可能な施設は限られることが多い。臨床の現場では血清診断が一般的であり、補体結合反応(CF)や間接赤血球凝集反応(IHA)での抗体価上昇が診断に使用される。さらに粒子凝集法(PA)、蛍光抗体法(IF)、酵素抗体法(ELISA)によりIgMやIgG抗体の検出も可能になっている。
治療と予防
治療の基本は抗菌薬による化学療法であり、マクロライド系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系の薬剤が用いられる。特に第一選択薬としてマクロライド系のエリスロマイシンやクラリスロマイシンが多用され、学童期以降にはテトラサイクリン系のミノサイクリンも使用されることがある。
感染経路と病原体
病原体は「肺炎マイコプラズマ」(Mycoplasma pneumoniae)で、細胞壁を持たないためペニシリン系薬剤が効かない。感染様式は飛沫感染と接触感染で、特に閉鎖的な集団で感染が広がることが多い。感染後、気道粘膜上皮を破壊しながら増殖し、特に気管支や細気管支の繊毛上皮への影響が顕著に現れる。粘膜からの病原体排出は、初発症状発現前の2~8日に始まり、発症後約1週間にピークとなり、その後4~6週間持続する。
感染に伴い特異抗体が産生されるが、徐々に減少するため、再感染がしばしば見られる。
まとめ
マイコプラズマ肺炎は、咳や発熱を主な症状とする非定型肺炎の一種である。。通年で発生するが、晩秋から早春にかけての報告が増える傾向があり、特に幼児から青年層に多く、潜伏期間は2~3週間と言われている。初期症状には発熱や倦怠感、頭痛があり、その後に乾性の咳が3~4週間持続するとされる。
治療はマクロライド系やテトラサイクリン系の抗菌薬が効果的で、ペニシリン系やセフェム系は無効であることが厄介な点だ。感染は飛沫や接触で広がり、学校などの閉鎖集団での感染リスクが高まりますが、再感染も少なくない。
マイコプラズマ肺炎は非定型肺炎として比較的軽症で経過する場合が多いものの、重症化するケースもあり、早期の診断と適切な治療が重要であると言える。
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