医師の働き方改革の真実-「医療安全」への視点が欠如した改革の危うさ

はじめに

医師の働き方改革の目的は医師の健康を守り、医療現場に健全な労働環境をもたらすことにある。しかし、本来、これは医師自身の健康のみならず、患者の安全を第一に考えるための改革でもあるはずだ。過労状態の医師が判断を誤れば、患者の命や安全が直接的に脅かされる可能性もある。にもかかわらず、現状の改革では医師個人の健康保護にとどまらず、医療現場全体の安全性向上という視点が見過ごされているのが現状ではないだろうか。

働き方改革は医師の健康だけの問題じゃない

医師の働き方改革が目指すのは、医師が無理なく働けるようにし、医療現場の労働環境を健全にすること。でも、ここで考えるべきは、医師の健康だけが守られることが最終目的ではなく、患者に安全で安心な医療を提供するためにこそ改革が必要だという視点なんだ。もし過労で判断力が低下した医師が治療にあたることがあれば、患者の命が危険にさらされることだってある。

欧米では医師の長時間労働が医療事故のリスクを高めるという考えから、厳しい労働時間のルールが設けられている。例えば、米国や欧州では医師が連続勤務を避け、きちんと休息を取るためのインターバル制度がある。これを考えると、日本でも同じように「患者の安全を守るためには、医師の健康が不可欠」だという共通認識がもっと必要だろう。


運転手の過労運転が許されない理由と同じ

バスや電車の運転手が足りないからといって、無理に過労運転をさせようとは誰も思わない。地方で運転手不足が深刻なせいでバス路線が減ってしまっても、それを「しょうがないよね」と受け入れられるのは、運転手が過労だと乗客の安全が守れないから。ところが、医療現場では「医師の過労は安全に影響する」という当たり前の考え方が、なぜか広がっていない。

医師が過労状態で診療すると判断力が鈍り、医療ミスが増えるリスクがある。患者の命に関わる場面での過労は、運転手の過労運転と同じくらい危険で、絶対に避けなければいけないことのはずなのに、その共通理解が医療現場にはない。この違い、どうしてだろう?


誰のための働き方改革か

医師の働き方改革の本当の目的は何だろう? それは、医師が無理をせず健康を守りながら働くことで、患者に安全な医療を提供することに他ならない。しかし今の改革は、宿日直許可をどんどん発行して、しかも夜勤に対する手当も出さないままで、いわば医師に過酷な働き方を続けさせる方向に進んでしまっている。このままでは、改革が単なる「ブラック労働」の温床になりかねない。

全国医師ユニオンが指摘するように、医師の「自己研鑽」として通常業務と同じ内容が行われていることも多く、結果的に労働時間の把握が曖昧になっている現状も問題。これでは、学びや成長のための時間である「自己研鑽」の意味が歪んでしまう。医師の業務内容そのものを見直し、患者側の受診行動も含めて変革しない限り、改革が目指す本当の目標にはたどり着けない。


医療安全のために進むべき方向

医師の働き方改革は、医師の負担を減らすためだけじゃない。患者が安心して医療を受けられる環境を整えることも重要だ。診療科ごとに交代制勤務を導入したり、救急医療機関のオンコール体制を見直したり、過労を防ぐための厳格な労働時間のルールを整備したりと、やるべきことは山積み。加えて、運輸業と同じように医療の現場でも「安全のための働き方」を当たり前にし、患者も医師の働き方に理解を持つことが大事だろう。

医師がしっかり休みを取り、安全な状態で診療に臨むことで、医療の質も上がる。日本の医療が患者の命と安全を守るための「患者のための働き方改革」へと進むためには、まずは医師の健康と患者の安全が一体であるという認識を、医療現場全体で深めていく必要がある。


結論-医師の健康と患者の安全の両立を目指す改革を

医師の働き方改革は、単に医師が健康に働ける環境を整えるだけではなく、患者が安心して医療を受けられる場を確保するためのものでもある。過労の医師が診療を続けるリスクは医療ミスに直結し、患者に危険を及ぼすことになる。だからこそ、労働基準法を守り、適正な労働時間を確保することで、医師と患者の両方が安心できる環境を実現する必要がある。

医師の健康を守りつつ患者の安全を最優先に考える本当の「医師の働き方改革」が進むことを、切に願う。

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Dr.こうじろう
1992年生まれ、関西出身。幼少期の喘息経験から医療に興味を持ち、地元大学の医学部を卒業後、研修医を経て総合診療医として地域医療に貢献。医療と介護の連携を重要視し、経済やマネジメントの知識も学びつつ、「最適化された医療を提供する」ことをモットーに従事する。趣味は筋トレ、テニス、ウイスキー収集。医療に関するニュースや日々の診療ですぐに実践できる知識を発信するブログ。